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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)596号 判決

原告

翠重代

外一名

右両名訴訟代理人

寺沢弘

外二名

被告

右代表者

福田一

右選任代理人

浪川道男

右指定代理人

石塚正敬

外三名

主文

一  被告は、原告翠重代に対し金二六〇万四、六〇七円およびうち金二五四万四、六〇七円に対する昭和四七年七月二七日から、うち金六万円に対する昭和四八年三月三一日から各支払済まで年五分の割合による金員を、原告翠健志に対し金四〇〇万九、二一五円およびこれに対する昭和四七年七月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告のその余を原告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は、原告翠重代に対し金六〇〇万円、原告翠健志に対し金一〇〇〇万円および右各金員に対する昭和四七年七月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行宣言あるときは担保を条件とする執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  昭和四七年七月二六日午後七時四五分頃愛知県東海市元浜町四四番地先路上において、翠吉三郎(以下吉三郎という)が運転する軽四輪貨物自動車番号六名古屋一八・五〇と神谷重徳が運転する普通乗用自動車番号名古屋五む六八・七六が正面衝突し、吉三郎は死亡し、右両車両は全壊した。

2(一)  本件事故発生現場である道路(以下本件道路という)は、名古屋市から豊橋市に至る国道二四七号線で、そのうち東海市名和町字北埋田一番地先から知多市日長字江口一四番地先に至る約12.8キロメートルは道路法四八条の二の規定に基き自動車専用道路に指定され通称西知多産業道路と呼ばれており、愛知県知事が管理しているものである。

(二)  本件道路には左の設置又は管理上の瑕疵が存在する。

本件道路は、知多市方面から新横須賀橋北詰の北方約14.5メートル地点までが往復二車線であるが、同地点から本件事故現場附近にかけて忽然と往復四車線となり、二車線部分の北行車線の延長上に四車線部分の南行車線が設置されていて北行車線をそのまま直進すると対向車と正面衝突する危険性のある構造となつている。そして二車線から四車線へ移行する地点より北方35.5メートル地点までゼブラマークが施され同地点において中央分離帯が敷設されていたが、急に道路が二車線から四車線に拡幅されているため北行車両がこれに衝突する危険があり、また右分離帯は四輪車が容易に乗り越えられる程度のものであつたのでこれを乗り越えて対向車と衝突する危険もなしとしない道路構造であつた。特に同付近は橋から北方にかけて下り勾配になつているので夜間北進車にとつては対向車のヘツドライトが目に照射され見とおしが悪くなつて中央分離帯の存在すらわかりにくい状況であつた。

また、ゼブラマークおよびゼブラマーク上に設置されていた反射式道路鋲は砂に覆われているまま放置されその機能を果さず、中央分離帯上に設置されていた視線誘導標も北から九ないし一〇本以外は根元からひきちぎられて存在せず、そのうえ北行車線の路面にはそのまま直進することができるかの如き進行方向の指示標示がなされていた。

(三)  以上のように右の道路の設置および管理に瑕疵があり、本件事故はこの瑕疵によつて生じたものである。

3  原告らは左のとおり損害を蒙つた。

(一) 吉三郎の損害

(1) 逸失利益

吉三郎はミシンの縫製加工業を営み死亡直近の一年間の加工賃収入は三三二万六、七九五円、経費は三割であるから年間所得は二三二万八、七五六円である。吉三郎は死亡当時五五才であるから就労可能年数は一二年吉三郎の生活費は所得の三割である。したがつて逸失利益は一、五〇二万一、八〇一円となる。

(2) 昭和四六年式スズキフロンテバンデラツクス(LS一〇D)の昭和四七年七、八月における中古車平均販売価格は一六万円である。

(3) 慰藉料は二〇〇万円である。

(4) 原告翠重代(以下重代という)は吉三郎の妻、原告翠健志(以下健志という)は長男であり各相続分に応じ重代は五七二万七、二六七円、健志は一、一四五万四、五三四円の損害賠償請求権を取得した。

(二) 重代の損害

(1) 葬祭費として三〇万円支払つた。

(2) 慰藉料は二〇〇万円である。

(3) 重代は神谷徳松に対し本件事故の損害賠償として二〇万円支払つた。

(三) 健志の損害

慰藉料は二〇〇万円である。

(四) 弁護士費用として重代が一五万円、健志が三〇万円支払うことを約した。

よつて原告重代は被告に対し八三七万七、二六七円、原告健志は一、三七五万四、五三四円を請求することができるが、本訴訟においては右金員のうち、重代は六〇〇万円、健志は一、〇〇〇万円および右各金員にに対する不法行為の日の後である昭和四七年七月二七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

3  同2(二)の本件道路に設置又は管理の瑕疵が存在することは否認する。

本件道路は道路構造令の定める各種基準に合致している。現場付近はほぼ均一的縦断勾配となつているため路上を走行する者にとつては概ね平坦で見通しも良好であり照明灯が設置され夜間の照明も十分である。また、横須賀橋北詰から北14.5メートルまで追越のための右側部分はみ出し禁止の路面表示が黄色の反射塗料によつてセンターライン上に施され、そのライン上には反射式道路鋲が約三メートル間隔に埋設されており、橋北詰14.5メートルから35.5メートルに亘りゼブラマークおよび反射式道路鋲が設置されゼブラマークの北には中央分離帯が敷設されている。中央分離帯上には視線誘導標が合計三二本設置されていた(これがひきちぎられたとすれば本件事故によるものである)。その他本件道路には方面および方向を示す標識、つづら折りありの標識、路面には進行方向表示が五ケ所も施されていた。

したがつて、昼間、夜間を問わず設置されていた安全施設に従つて運転すれば二車線から四車線への移行は円滑且つ安全に行われるようになつていたのである。

4  請求原因2(三)の事実は否認する。

本件事故は専ら吉三部の過失に起因するものである。

5  同3の事実はすべて否認する。

三、抗弁

吉三郎には前方不注視およびハンドル操作不適切の過失がある。

四、抗弁に対する認否

否認する。

第三  証拠〈略〉

理由

一昭和四七年七月二六日午後七時四五分頃、愛知県東海市元浜町四四番地先国道二四七号線上において翠吉三郎運転の軽四輪貨物自動車と神谷重徳運転の普通乗用自動車が正面衝突し、吉三郎は死亡し、右両車両は全壊したことは両当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、国道二四七号線を北進していた吉三郎運転の軽四輪貨物自動車は新横須賀橋北詰から北方約五四メートル、中央分離帯南端から北方約六メートルの地点で右前輪を中央分離帯に乗り上げ後輪を残したままやや横向きになつて約一四メートル分離帯上を滑つた後右分離帯を乗り越し右斜め前方に突出たところ、折から南行追越車線を走行中の神谷重徳運転の普通乗用自動車と衝突したことが認められる。証人辻蒼生雄の証言によれば事故発生当時は既にかなり暗くなつており、ライトをつけた方がよい暗さであつたことが認められる。

二本件道路は国道二四七号線であり、本件事故現場付近は自動車専用道路に指定され通称西知多産業道路と呼ばれていて、愛知県知事が管理していることは当事者間に争いがない。

三本件事故現場付近の道路状況は左のとおりである。

1  〈証拠〉によれば次の事実が認められる。本件道路は新横須賀橋北詰までは二車線であるが、北詰から約二〇メートル付近から西側に二車線分拡張され北詰から北約六〇メートル付近で四車線となる。更にその北では横須賀インターチエンジへのランプウエイが西に岐れている。北詰までの往復二車線のうち北行車線は往復四車線となつた場合の南行車線に変わり、西側に拡張された二車線が北行車線となつているため、北行車線は二車線から四車線への変化にともない急に西側ヘカーブを描いている(右移行区間は約五〇メートルである)。道路自体はほぼ直線状、路面は舗装されて平坦であり橋から北方にかけてゆるやかな下り勾配がある。見通しは良好である。

2  〈証拠〉によれば、照明灯は、道路東側の橋北詰に一基右地点から北に五〇メートルごとに一基づつ、道路西側の橋北詰から北七〇メートルの地点に一基右地点から北五〇メートルの地点に一基、それぞれ設置されている。この照明灯は日没時四〇ルクスになると自動的に点灯され日の出時一〇〇ルクスになると自動的に消灯されるものでその明度は二〇ルクスである。前顕乙第一号証、証人沢田嘉明、同辻蒼生雄の各証言によれば二〇ルクスの明るさは普通の人が新聞を読める程度で、他の道路に比べれば明るい方で見通しは良かつたことが認められる。

3  〈証拠〉によれば現場付近の諸施設は左のとおりである。新横須賀北詰から北方14.5メートルまでは追越のための右側部分はみ出し禁止の路面表示である黄色のセンターラインが施され右ライン上には高さ4.8センチメートル、長さ二四センチメートル、幅12.6センチメートルの両面反射式道路鋲が三メートル間隔で設置され、そこからさらに北方35.5メートルにかけて路上障害物接近標示(ゼブラゾーン)が白色の反射塗料で表示され、右ゼブラゾーンのうち南方二一メートルの部分の上には高さ4.8センチメートル長さ四〇センチメートル、巾11.6センチメートルの片面反射式道路鋲が二メートル間隔で東側に南行車線を向いて一一個、西側に北行車線を向いて九個それぞれ設置されている。橋北詰から約五〇メートルの地点から北に中央分離帯があるが、その南端部約6.3メートルは高さ一五センチメートル、巾七〇センチメートルで南東から北西に斜め若干弧状に、その後は徐々に巾を広げながらほぼ北に向けて敷設されている。分離帯南端の弧状部分には一メートル間隔で二本づつ計一四本の、その北二五メートルの部分には三メートル間隔で二本づつ計一八本の視線誘導標がそれぞれ設置されていた。しかしながら〈証拠〉によれば、少くとも前記認定の吉三郎運転車が乗り上げた地点以南即ち中央分離帯の南端から約六メートルの弧状部分に設置されていた視線誘導標は事故発生時には立つていなかつたことが認められる。〈証拠〉は前示各証拠に照らし措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠は無い。また〈証拠〉によればゼブラゾーン上に土砂があつたこと、そのためゼブラゾーンの西側約半分は見えなくなつていたこと、ゼブラゾーン上の道路鋲の周囲にも土砂が積つていたことが認められる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4  〈証拠〉によれば、本件道路東側には、新横須賀橋南詰から南約五三メートルの地点にの標識が、橋北詰付近および北詰から北約二〇メートルの地点にの指定方向外進行禁止の規制標識が、橋北詰から北一〇メートルの地点にという方面および方向を示す案内標識が、橋北詰から二五メートルの地点に追越のための右側部分はみ出し禁止および追越禁止区間の終りを示す標識がそれぞれ設置されている。北行車線の路面中央付近には新横須賀橋上に数個、ゼブラゾーンの始点付近に一個の進行方向を示す指示標示がなされていた。その他に道路標識道路標示が施されていたことを認めるに足る証拠はない。なお右の標識は青地に白の矢印で示されており、法定のものではないが道路の方向とカーブの存在を示し、予めこれを警戒させるための標識というべきである。

5  〈証拠〉によれば、本件道路の交通量はかなり多いこと、大型車の通行も比較的多いこと、現場付近には速度制限等の交通規制は無いことがそれぞれ認められる。

四ところで営造物の瑕疵とは当該営造物が通常有すべき安全性を欠いていることを意味する。叙上認定したところによれば本件道路は二車線から四車線への急な移行にともない二車線の北行車線の延長上に四車線の南行車線が設置され、二車線の北行車線をそのまま直進すると南行車線に突入するという危険性を有する構造となつている。本件道路が自動車専用道路で大型車を含め交通量が多く、交通規制もないことからみるとその危険性はことに大きい。しかし、道路は一般共用の便宜のため様々の構造をもつて設置されうるものであり、それぞれの構造にあわせた施設により右のような危険性が除去されていれば通常道路が有すべき安全性を備えているということができる。そのためには、右のような道路構造を運転者に適確に知らしめ、二車線から四車線への移行が円滑かつ安全に行われ二車線を北進する車が直進しても南行車線に突入することがないよう十分な安全施設を設置し、しかもこれを常時保全管理しておく必要がある。

以下、本件道路の設置管理上の瑕疵の有無について検討する。

1  新横須賀橋南詰から南約五三メートルの地点に設置されていた前記の標識は、これが正規のものではないとしても運転者に対しカーブの存在を認識させる一つの危険防止措置であるということができる。しかし、事故現場付近にある指定方向外進行禁止の標識はそれ自体本件道路の構造を認識させ得るものではない。また路上に表されている前記進行方向指示標示も同様である。ゼブラマーク始点付近の前記進行方向指示標示は、特に夜間などにおいて車両の前照灯に照されて、却つて北進車をそのまま直進させるべく誘導してしまう危険がないとはいえず、前記のようにゼブラマークが土砂に被われて見えにくくなつているような場合にはその危険が増大するおそれがある。即ち前記道路の構造を認識させる施設として存するの標識は一応評価できるとしても、これをもつて充分なものとはとうてい考えられない。

2  本件道路には、はみ出し禁止およびその上の道路鋲、ゼブラマークおよびその上の道路鋲そして中央分離帯という安全施設が設置されている。しかし、二車線から四車線への移行区間はわずかに約五〇メートルで、北行車線のみ急に左ヘカーブしていることから、北行車両が二車線から四車線へ円滑移行していくためには右諸施設が十分に管理されその機能を果していなければならない。しかるに前記認定のとおりゼブラマークは土におおわれて西半分は見えず道路鋲の周りにも土がたまり、中央分離帯南端約六メートル上の視線誘導標はなかつたのであるから、四車線への移行が円滑に行われうる状態であつたとは言い難い。このことは〈証拠〉によれば中央分離帯に多くのタイヤ痕が認められることによつても首肯されるところである。証人沢田嘉明の証言によれば、道路鋲に土が積つても機能に支障はないとのことであるが、〈証拠〉をそれぞれ比較すれば、機能が失われていたとまでは言えないとしてもその機能が十分であつたとは認められない。

3  また、右施設のうち安全確保の要ともいえる北行車線と南行車線の接点である前記中央分離帯南端約6.3メートルの弧状部分は高さ一五センチメートル巾七〇センチメートル程度のものでガードレールもなく、これでは車両の乗り越え防止に必ずしも十分なものであるとはいえない。

以上要するに、本件道路を北進する車両の運転者に対しその道路構造を適確に認識させ、同車両の四車線における南行車線への進入を防止する措置が十分にとられていたとは思われない。

本件道路の危険性は結局のところ除去されておらず、道路として通常有すべき安全性を欠き、本件道路には設置又は管理上の瑕疵があつたものといわざるを得ない。

五前記事故の態様及び本件道路の瑕疵からみて、道路の瑕疵が本件事故発生の一因をなしていることが明らかである。被告は本件事故が吉三郎の過失のみによつて生じたものと主張するが首肯できない。

従つて、被告は、国家賠償法二条一項により本件事故による損害を賠償する責任がある。

六原告らの損害は左のとおりである。

1  吉三郎の損害

(一)  〈証拠〉によれば、吉三郎は従業員一人を使用してミシン縫製加工業を営み専ら市橋政商会の仕事をしていたものでその平均月収は二七万四、七三一円、平均年収は三二九万六、七七二円であること、必要経費はおよそ三割であることが認められ、したがつて年間所得は二三〇万七、七四〇円である。成立に争いのない甲第一六号証および原告翠重代本人尋問の成果によれば、吉三郎は親子三人で生活し子供は大学在学中であること、事故当時吉三郎は満五五才であつたことが認められる。よつて吉三郎の生活費として三〇パーセントを控除することとし、就労可能な六七才までの逸失利益を複式ホフマン方式により算出すると一、四八八万六、〇七六円となる。

(二)  〈証拠〉によれば、事故により全壊した吉三郎の車両はスズキフロンテバンデラツク型式LS一〇Dであり、右車種の事故時における平均中古車販売価格は一六万円であることが認められる。

(三)  前(一)認定の諸事実を総合のうえ吉三郎の慰藉料として二〇〇万円を相当と認める。

(四)  〈証拠〉によれば原告翠重代(以下重代という)は吉三郎の妻であり原告翠健志は吉三郎の養子であることが認められる。よつて原告らは吉三郎の一、七〇四万六、〇七六円の損害賠償請求権を相続分に応じ左のとおり相続したものである。

重代   五六八万二、〇二五円

健志 一、一三六万四、〇五一円

2  重代の損害

(一)  原告翠重代本人尋問の結果によれば重代は葬祭費として三〇万円を支払つたことが認められる。

(二)  諸事情を考慮すれば慰藉料として二〇〇万円を認めることができる。

(三)  原告翠重代本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第二一号証によれば、重代が本件事故による神谷徳松の損害の一部賠償として同人に対し昭和四八年三月一四日二〇万円を支払つたことが認められる。神谷の損害については吉三郎及び被告が共同不法行為者として各自賠償の責任があるところ、これを賠償した原告重代において被告にその求償を求めることができるものとするのが相当である。

(四)  吉三郎の相続分も合せ計八一八万二、〇二五円である。

3  健志の損害

(一)  健志の年令を考慮し一〇〇万円を相当と認める。

(二)  吉三郎の相続分も合せ計一、二三六万四、〇五一円である。

七次に過失相殺の主張について検討する。

本件事故の態様は吉三郎が北行車線を直進したため中央分離帯を乗り越え対向車と衝突したものである。衝突までの間に吉三郎がブレーキ・ハンドル等の操作をした形跡は証拠を精査するも認められない。スリツプ痕は右後輪が中央分離帯に引掛り車が回転した結果生じたものである。右態様からすれば吉三郎は本件道路情況に全く気付くことなく北行車線を直進したことが認められる。

さきに認定したとおり本件道路には瑕疵があるが、瑕疵の存在が運転者の注意義務を軽減するものではなく、運転者は前方左右をよく注意して道路情況を把握し障害があれば発見して衝突等を回避しなければならないのである。本件においては前示認定の諸情況によれば運転者に対する安全措置が十分ではなかつたとはいえ道路の見とおしも良く、北行車両の運転者が前方注視さえ怠らなければ本件道路の構造を認識し中央分離帯を発見することは可能であつたこと、また、運転者が正常の状態で運転しておれば道路鋲の上を走行することによつて、或は中央分離帯に接触した段階で異常に気づき中央分離帯を乗り越える事態を回避することも可能であつたものと認められるので、吉三郎には少くとも前方注視を怠つた過失および早期に異常に気付き事故を回避すべく適切な措置をとるべき義務を怠つた過失があつたものと推認することができる。

そして右過失の本件事故発生に対する割合は七〇パーセントと認めるのが相当であるから、前記原告らの本件不法行為による損害額並びに原告重代の前記求償額(金二〇〇、〇〇〇円)につき各七〇パーセントを控除すると、重代は二四五万四、六〇七円、健志が三七〇万九、二一五円となる。

八原告翠重代本人尋問の結果によれば弁護士費用として判決認容額の一割を支払う契約をしたことが認められるところ、同費用の損害としては、少くとも原告重代につき一五万円、原告健志につき三〇万円と認めるのが相当である。以上合計すれば原告らが被告に請求しうる額は重代が二六〇万四、六〇七円(過失割合に応じた求償額六〇、〇〇〇円を含む)、健志が四〇〇万九、二一五円となる。

九よつて、被告に対し、金二六〇万四、六〇七円およびうち本件不法行為による損害金二五四万四、六〇七円に対する不法行為の日の後である昭和四七年七月二七日から、うち共同不法行為者に対する求償金六万円に対する訴状送達の翌日であることが一件記録上明らかである昭和四八年三月三一日から、支払済に至るまで各年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告翠健志が損害金四〇〇万九、二一五円およびこれに対する昭和四七年七月二七日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度において理由があるからこれを認容しその余の部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用し、仮執行免脱の申立についてはその必要がないものと認めこれを却下して主文のとおり判決する。

(至勢忠一 熊田士朗 糸井喜代子)

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